今年の7月の事。
何時もの場所を何時もの様に徘徊していると、こんな物に遭遇。
これはトキイロヒラタケだ。
トキイロヒラタケに遭遇するのは多分3度目。
以前見た物はかなり色褪せた状態だったので(過去記事→こちら)
初見ではトキイロヒラタケとは判らなかったのだが
こんな風に綺麗に朱鷺色の状態の個体に
遭遇したのは初めての事だったので感激してしまった。
トキイロヒラタケは栽培品が市販されている。
(BIOCOSMOさんのサイトより引用)
だが当方が遭遇した物はかなり外見が違う。
画像検索をするとこの様な形状での発生も少なくない様だ。
(google画像検索の結果→こちら)
上掲の過去記事にもあるが
当方は2005年に井の頭公園で良く似た物に遭遇している。
画像では判り難いが、
そのキノコには薄っすらとピンク色が感じられたので
「多分トキイロヒラタケなのだろうな」と漠然と思っていた。
今回遭遇したトキイロヒラタケも形状が良く似通っていたので
やはりそれで良かったのだな、と勝手に納得した。
それにしても綺麗な色合いだなぁ。
裏返してヒダを見てみる。
ヒダも綺麗。
と、ちょっと違和感が。
何かブツブツの様な物が見える。
これは一体???
これは「ヒラタケ白こぶ病」では無いだろうか。
名前に「ヒラタケ」とある様にヒラタケでの発生が多く、
ヒラタケの栽培家にとっては恐るべき病気の一つ、との事。
(岐阜県森林研究所さんのサイトより引用)
このこぶの中には線虫と言う
体長1mm程度の小さなウジ虫の様な
白いイトミミズの様な物が潜んでいると言う。
多くのキノコはキノコバエと言う、
キノコの中に入り込んでキノコを食べて成長し、
蛹化→羽化する小さな羽虫に食害されるのだが
その中でもナミトモナガキノコバエと言う種類の蛹の中に入り込み
羽化したナミトモナガキノコバエによって他のキノコに運ばれ
そこで繁殖し、そしてまたナミトモナガキノコバエの蛹に入り込み、
と言う風な生態を持っている由。
(森林総合研究所九州支所さんのサイトの内容を適宜要約)
となると、ヒラタケ以外のキノコに
連れて行かれた場合はどうなるのだろうかなぁ。
ヒラタケ以外では繁殖できず死んでしまう、と言う
とてもリスクの大きな賭をしているのだろうか。
まぁ、寄生生物の多くは
そう言うリスキーな生活環を持っている物だけど
どうなんだろうかなぁ。
それともナミトモナガキノコバエは
ヒラタケ科以外には産卵しないのだろうか。
アゲハチョウの幼虫がミカン科の植物の葉しか食べない様に
ヒラタケ科しか食べないと言うニッチな食性なのだろうかなぁ。
そして、同じヒラタケ科でも成分の関係で
ヒラタケを一番好んで繁殖場所に選んでいる、
と言う事なのだろうかなぁ。
うーむ、良く判らない。
幾ら検索してもその辺の事は判らなかった。
そう言う研究がされているのかどうかも不明。
在野のイチ素人の当方にはお手上げだ。
その後も調べた所、
ヒラタケ白こぶ病から検出される線虫について
2001年に「ヒラタケヒダコブセンチュウ」として
新種登録された(アグリナレッジさんのサイトより)点からすると
線虫に関してはヒラタケ科のキノコを
「食草」ならぬ「食菌」としている種類なのだろう。
となるとヒラタケ以外では繁殖出来無いのかも知れない。
ナミトモナガキノコバエに関しては
ヒラタケ科以外のキノコに産卵するのかどうかは
判らなかった。 (20200901追記)
さて、『栽培きのこ害菌・害虫ハンドブック』によると
この病気が最初に確認されたのは1978年島根県にて。
だが、その子実体の詳しい調査はされたのかどうかは不明。
1979年、屋久島で発見された罹患子実体によって
詳細な調査がされた、との事だが
その時には既に脱出して居たのか、
線虫の確認はされなかった、との事。
その後、こぶの中に線虫が居る事が判明はしたが
病因についての詳細は
この図鑑の初版の1986年時点では不明だった様子。
キノコバエに媒介された線虫による病害、
と言う実態が判明したのは2000年に発表された
研究での事の様だ(アグリナレッジさんのサイトより)。
当初、「いぼ病」「ひだこぶ病」の名が提唱されていたのだが
「白いこぶ」がヒダ以外の場所にも出来る事から
同書によって「ヒラタケ子実体の白こぶ病」の名称が提案されている。
そこから「ヒラタケ白こぶ病」の名で広く定着した様だが
正式名称は2000年に開かれた日本植物病理学会にて採用された
「ひだこぶ線虫病」との事。
それにしても「ヒラタケ白こぶ病」という名前なもんだから
ヒラタケ以外にも発生するかどうかを考えた事無かったなぁ。
トキイロヒラタケは分類的にヒラタケととても近いので
発生してもおかしくは無いかも知れないけれど。
で、調べてみたら実際にヒラタケの他には
ウスヒラタケ、トキイロヒラタケ、エリンギにも発生する事が
確認されているらしい(岐阜県森林研究所さんのサイトより)。
エリンギは元々日本には自生していなかった種類だし
自然下での発生量もウスヒラタケ、トキイロヒラタケに比べて
ヒラタケの発生量、発生頻度の方が格段に高い。
栽培量もヒラタケは段違いに上なので
「ヒラタケ白こぶ病」の命名で問題なかったのだろうが
ヒラタケの栽培量は近年かなり減っているし
今ではエリンギの栽培量の方が遙かに上回っているので
今後のことを考えると
病名の変更は考えた方が良いのかも知れないなぁ。
もっとも、それを鑑みてか「ヒラタケ類白こぶ病」と
”類”を付けて表記している所もあったので、
既にそう言う考慮が
なされているのかも知れない(アグリナレッジさんのサイトより)。
また、「白こぶ病」の点も
ヒラタケのヒダ・菌糸が白かったのでコブも白かったのだが
トキイロヒラタケの場合はご覧の様に「赤こぶ」なので
正式名称の「ひだこぶ線虫病」の方が
この病状の実態に即していると考えるのだがどうだろうか。
まぁ、当方みたいな門外漢が
こんな場末のblogで言っても仕方無いのだけれど。
尚、こぶ病には毒性は無い、との事。
だから白こぶ病のキノコを食べても問題は無いらしいが
見た目がよろしくないのでそのまま食べる人はまぁ、いないだろう。
検索すると、こぶの部分を取り除いて食べている人の記事はあった。
さて、せっかくなのでトキイロヒラタケの一部を持ち帰り
標本にする事にした。
ふと見ると傘の下だった部分が白くなっている。
これは降り積もったトキイロヒラタケの胞子だ。
この胞子達には頑張って成長して貰って
また何時か、綺麗なトキイロヒラタケに遭遇したい物だ。
で、一ヶ月程凍結乾燥させたものがこちら。
かなり色が変わってしまった。
実はトキイロヒラタケは調理すると色が薄くなってしまうのだが
乾燥させると色合い自体が変わってしまう様子。
うーん、元の色合いを保存出来無いのは残念だなぁ。
ひだのこぶはどうか。
かなり目立たなくなってしまったが何とかこぶは確認出来る。
矢張りヒラタケのくらいに派手な病状でないと
こうなってしまうのは仕方無いか。
でも、今回はこぶを残す事が主題だったので取り敢えず良かった♪
そう言えば、この場所では以前何回かヒラタケには遭遇して居るが
その時は白こぶ病は見られなかった。
ヒラタケの方をより好んでいる筈なのに
何故このトキイロヒラタケの方に発生したのだろうかなぁ。
何かのちょっとした環境や条件の問題なのか、
その時はナミトモナガキノコバエが
まだこの場所に進出して居なかったからなのか。
良く判らない。
謎だ。
今後もヒラタケ科のキノコに遭遇した場合は
白こぶ病の有無を良く確認する事にしよう。