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カエンタケの事

今年の8月下旬から10月にかけて
立て続けにカエンタケのニュースが報道された。


 猛毒キノコ 滋賀で拡大 カエンタケ、ナラ枯れ影響か
 
猛毒のキノコ「カエンタケ」が今年に入り、
滋賀県内の各地で確認されている。
広葉樹のコナラが枯れると根の近くに生えるキノコで、
発生の広がりは「ナラ枯れ」の拡大が背景にある。
秋のキノコ狩りシーズンを前に、県は注意を呼び掛けている。

県によると、カエンタケは手の指のような形で
高さが3〜15センチ、太さは鉛筆ぐらい。
表面は赤色。6月から10月末にかけて、広葉樹林内に生える。
キノコの汁に触れただけで皮膚が炎症になり、
食べると全身の炎症などが起き、致死量は3グラム。
1999年に新潟県、2000年には群馬県で死亡中毒事故が起きたという。

今年は大津、野洲、高島の3市でカエンタケが見つかっている。
県森林センター(野洲市)周辺の県有林では
8月上旬に50〜60株を確認。
大津市の龍谷大瀬田キャンパスの西隣にある同大学所有の森でも
7月下旬、7〜8株が見つかり、
森の入り口に注意喚起の看板を立てた。

2カ所とも昨年から、カシノナガキクイムシが持ち込む病原菌が原因の
「ナラ枯れ」が広がっている。
県内のナラ枯れ被害は00年度は4・38ヘクタールだったが、
10年度は22・96ヘクタールに増えており、
龍谷大理工学部の宮浦富保教授(森林生態学)は
「確認されている場所以外にも、発生地は多いのでは」と懸念する。
(2011/08/24 23:10 【京都新聞】)



以下は同様の内容なので本文を縮小して掲載した。


猛毒のキノコ「カエンタケ」が、関西で急速に増殖している。

奥深い山地にある大木の株に生えるため、従来はほとんど人目に触れることがなかったが、ナラやシイなどが枯死する「ナラ枯れ」が広がるにつれて自生の範囲が拡大。里山でもカエンタケが生える株が増えたためらしい。1999年には新潟県で、食べた人が死亡した例もあり、自治体や専門家が注意を呼びかけている。
カエンタケは高さ3〜15センチ。赤やオレンジ、赤茶色で、人間の手の指のような形をしている。触ると、その後皮膚がただれ、食べた場合は下痢や嘔吐(おうと)、運動や言語の障害を引き起こす。致死量は3グラムとされる。
大阪
市立自然史博物館の佐久間大輔・主任学芸員によると、全国での目撃情報は年1、2件だったが、2000年以降は毎年十数件寄せられるようになった。京都市内では08年から10か所以上で見つかっている。
(2011年9月24日14時55分 読売新聞)



猛毒キノコのカエンタケ、東海地方でも急増

発生が増えている「カエンタケ」(岐阜市で)=尾賀聡撮影 猛毒のキノコ「カエンタケ」が東海地方でここ数年、急速に増えていることがわかった。
 触って汁が付くだけで皮膚がただれ、食べた場合は激しい下痢になったり、言語や運動に障害が出たりする。1999年には新潟県で食べた人が死亡する例もあり、自治体が注意を呼びかけている。
 カエンタケは赤やオレンジ色で高さ3〜15センチ。人の手や指のような形で、コナラやミズナラなど「ナラ類」の枯れ木の根元近くに多く生えるという。
 岐阜市北部の森林公園では4、5年前から、複数の場所で見つかるようになった。今のところ被害はないが、先月、「触らないで」との看板を数か所に立てた。
 キノコの専門家によると、昔は山深い所でしか見られなかったが、この2、3年は愛知県の尾張旭市や春日井市、三重県いなべ市など住宅地に近い里山でも見つかっているという。
(2011年10月3日12時37分  読売新聞)
 


実は数年前からカエンタケのニュースが増えて来ている。
どうやら全国的にカエンタケの発生が増えている様だ。
実際に当方の行動範囲の名古屋東部でも毎年発生を確認している。
なので、この3年に出逢ったカエンタケの一部を以下に。

kaentake-3.JPG
何か別の生物が首をもたげている様だ。

kaentake-4.JPG
kaentake-5.JPG
これが成長した状態を見てみたかったなぁ。

kaentake-6.JPG
kaentake-7.JPG
上の変形した個体はやたらブツブツした質感だった。

kaentake-9.JPG

kaentake-8.JPG
kaentake-10.JPG
可愛いので採ってみた。

kaentake-11.JPG
kaentake-12.JPG
こちらは奇妙な形。
赤子の手みたいで気持ち悪い……

kaentake-13.JPG
kaentake-14.JPG
こちらは細長く、色鮮やかな個体。

kaentake-15.JPG
kaentake-16.JPG
kaentake-17.JPG

こちらは岐阜県荘川村で発生していた個体(画像提供HM氏)。
kaentake-1.JPG
kaentake-2.JPG
指みたいで気持ち悪いw

本当に色も形も様々だ。


上の記事にもあるが、カエンタケは
カシノナガキクイムシ(通称:カシナガ)の
食害によって枯れたナラの木から発生すると言う。
だが、当方が見た範囲では
枯れていないナラの根元からも発生している。
カシナガとカエンタケの関係の詳細は不明との事で
カシナガが直接カエンタケの胞子を媒介している、
と言う訳では無いらしいが
カシナガによって衰弱したナラには
カエンタケが発生しやすい何かの条件が生じているのだろう。

Wikipediaによると
分類上カエンタケの所属するニクザキン属は
他のキノコの菌糸に寄生する「菌寄生菌」との事だ。
カシナガは、樹木に穿孔し
内部に特殊な菌を植え付け、それを餌に幼虫が成長すると言う。
ひょっとしたらカエンタケは
その菌に寄生しているのかも知れないなぁ。


カシナガは体長5mm程度の小さな甲虫だ。
それが数え切れない程の数がナラに穿孔、食害し
樹勢を弱らせ、最終的に枯死に至らせてしまう。
名古屋東部ではそのカシナガの害を受けたナラがとても多い。
kashinaga.JPG
この様に、木の根元にカシナガの穿孔した際に出る木の粉が
雪の様に降り積もっている光景を良く見掛ける。
体長5mmの虫1匹が出す木の粉なんて微々たる物の筈だ。
それがこんなにも降り積もっているのだから
どれだけの数のカシナガが
この木に穿孔しているのかと考えると気が遠くなりそうだ。
このナラも数年内に枯死してしまうのだろう。
そして、この場所にカエンタケが発生するのかも知れない……



先の報道では、どれもカエンタケは猛毒菌だと紹介しているが
どの様な猛毒なのかの詳細は書かれていない。
紙面では字数の関係もあるので、仕方無いだろう。
ちょうど当方の手持ちの資料、
『どうしん10号』(新潟きのこ同好会2000-9刊)に、
1999年新潟における中毒死亡事故の詳細な記録があったので
長くなるが以下に引用してみたい。


        カエンタケによる食中毒の発生について 

              
県生活衛生課 川上直也

1 事件の概要

 平成11年10月03日、見附市の温泉旅館でテーブルの角に置いてあった
カエンタケ(採取してから日時が経過して小豆色に変色した物)を
2.5cm〜3cm程度にちぎり、ぐい呑みに入れてキノコ酒として飲んだ5人が
30分経過した頃から腹痛、下痢、悪寒、手足のしびれ等の症状を呈し
4人が医師の手当てを受け、3人が入院したが、うち一人が5日の夜、
循環器不全で死亡した。他の2人は腹痛、下痢、嘔吐等の胃腸炎症状の他、
口内の潰瘍、四肢顔面の脱皮、脱毛等の特異的な症状を呈し
回復するまで50日以上の入院加療を要した。


2 死亡した患者の摂食からの経過

 摂食後54時間後に循環器不全、腎不全で死亡した。

10/03   14:30 カエンタケ約3cm程度をぐい呑みに入れ酒とともに飲む。
            15:00 腹痛、悪寒、頭痛、手足の痺れ、嘔吐、下痢の症状を発症
                      病院で受診。
            19:30 輸液後帰宅
10/04   10:00 症状の改善が見られず、口の渇き、
                       痺れを訴え腎機能障害の疑いで再受診し入院。
10/05     0:00 尿が出なくなり血圧が低下。昇圧剤を投与。
              6:00 昇圧剤、及び抗ステロイド剤が投与されたが
                       ショック症状を呈し意識混濁、多呼吸となる。
            11:00 別の病院に移送。
            12:00 一時心肺停止したが治療で再動。
            17:00 循環器、呼吸器、腎不全、DICでショック状態となる。
            20:43 循環器不全、腎不全で死亡。

               (DIC:播種性血管内凝固症候群)

3 症状


 発症は摂食後30分経過した頃から始まり、嘔吐、下痢、
腹痛の胃腸炎症状、悪寒、頭痛、めまい、発熱等の風邪様症状を示した後、
24時間から48時間を経過したころから口内炎、脱皮等の症状を併発し、
10日を経過した頃から頭髪の脱毛症状が発現した。



4 検査所見  (略)
5 まとめ    (略)



6 過去カエンタケによる食中毒が疑われた事例

  1983年頃、山形県米沢市で症状の激しい食中毒があった事を
   清水大典氏から報告を受け、標本が届けられた。

 ◆1991年10月26日 山梨県の47歳の男性が、
   数センチをてんぷらにして食べたところ
   数日後、発熱、頭髪脱毛、運動機能障害の症状を呈し、
   医師の診断では小脳の萎縮が認められたとの報告が
   森林研究所根田仁氏から土井氏にあった。
   なお、両事件の共通症状は、言語障害と運動障害と記載されている。

  1997年10月05日、青梅市内で採取した物を
   家族3人がバター炒めにして食べた。
   調理した主婦(37)は一口噛んで見て異常に苦かったので
   吐き出したが、長男(13)はマッチ棒程度の太さの物を
   1cm程度齧った所、あまりの苦さに思わず飲み込んでしまった。
   また、祖父(62)は苦さに耐えて摂食した。
   摂取後30分程で長男が、3時間後に祖父が発症。
   2人とも医療機関を受診し、その後長南は4日間入院した。
   症状は嘔吐、下痢、発熱、頭痛、眼球血脈充血、顔面・口唇腫脹、
   咽頭浮腫、嗄声、呼吸困難を呈した。
   なお、当該キノコをマウスに経口投与し経過観察をしたが異常を
   認めなかった為、カエンタケが原因の中毒とは診定されていない。



2010年新潟日報事業社刊『新潟のきのこ』には
この記事がそのまま掲載され、
カエンタケへの注意喚起がなされている。
補足情報として、当時の報道では
元々は旅館従業員が
「珍しい、色の綺麗なキノコ」を見付けたので
飾りとして置いていた物で
薄気味悪いとして一度捨てられた物が
何故かまた館内の囲炉裏端に置かれており
それを宿泊客が酔っ払いのノリで
キノコ酒だ!として飲んだ、と言う事だったと記憶している。

この事故で恐ろしいのは
被害者はカエンタケを浸した酒を飲んだだけで
キノコ本体を食べていないにも関わらず
この様な重篤な事態に至った、と言う事だ。

カエンタケの毒成分としては
トリコテセン類が検出されていると言う。
トリコテセン系化合物はベトナム戦争時、
化学兵器として使用された、と言われている。
酒に浸した、と言う事は「アルコール抽出をした」
と言う事なのかも知れないが
ほんの数十秒〜数分浸しただけ、と思われるので
それでも上述の症状を引き起こすのだから、
それ程強烈な猛毒と言う事なのだろう。
実際、摂食しないでも
皮膚に汁が付いただけでも炎症を引き起こすと言われている。
なので、先の画像の様に
採取した時はその点にかなり注意をした。

キノコの新種登録の際には
何故かにおいと味の記述をする事が要求されている(らしい)。
図鑑でも、食毒関係無く、その記述がされている物が多い。
その為、軽くかじって味を確認するのだ。
どんな毒キノコでも、
味を確認しても飲み込まなければ大丈夫だ、と言われていたが
このカエンタケに関してはそれも通用しないのだ。


所で、上で掲載した画像を見ても判る様に
カエンタケは色形の個体差がとても大きい。
webで画像検索しても、本当に千差万別だ。
その点に関して、上記の『どうしん』の中の
「カエンタケの子のう果 中野正剛」の項では

 「(カエンタケは)同一状況にあっても鮮やかな赤橙色の物と、
  黄褐色、 汚黄色になる物がみられる。
  又、外形もとさか状やてのひら状に一つの柄から
  枝分かれする物、棒状や角状になりあまり分枝しない物がある。」


として、それらが別種の可能性もあり、
毒性の程度の含め分類研究が必要である事を示唆している。
実際、当方が実見した例だけでも
個体差があまりにも大きくて
本当にそれらが全てDNA的に同一種なのか
疑問に感じてしまう程だ。

2010年ソフトバンククリエィティブ刊小宮山勝次著
『キノコの魅力と不思議』には
カエンタケの味噌汁を食べた3日後に昏倒し
原因不明の再生不良性貧血と診断、治療され
意識は当日に回復、本人は既に完治したと訴えたが念の為入院、
数週間後に退院した、と言う例が上げられている。
その人は退院後小宮山氏の本を見て
初めてカエンタケの事を知り、それによる中毒事故だった事が判明した、
との事である。
新潟の事例と、症状と経過にあまりにも差がある。
これが中毒者の体質の差による物だけなのか、
カエンタケの個体差による物なのかは判らない。
ひょっとしたらカエンタケは
「カエンタケ複合種」と呼ぶべき物で
将来的には幾つかの種に分けられ
種によってこの様に毒性に大きな差があるのかも知れない。
尚、同書によると
カエンタケの味噌汁は不味かったとの事だ。


新潟の中毒事故の翌年の2000年には
群馬県の男性がベニナギナタタケと間違えて食べた為に
死亡した、と言う事例も発生している。
『北海道のキノコ』(五十嵐恒夫 北海道新聞社刊)では
カエンタケの中毒事例に関して

 ベニナギナタタケと間違えたり、
 乾燥して黄土褐色となったものをマイタケと間違えたようである。


と書かれている。

あまり利用されていないが、ベニナギナタタケは可食のキノコだ。
因みにベニナギナタタケはこちら。
benminaginata-1.JPG
こちらはちょっと古びた個体。
benminaginata-2.JPG
確かに細長いタイプのカエンタケなら
間違えてしまう事もあるかも知れない。
だが、ベニナギナタタケは中空で柔軟な肉質なのに比べて
カエンタケは中実で硬い肉質なので区別は付きやすい。
恐らく中毒者はカエンタケの事を知らなかった為に
色形の類似だけでベニナギナタタケである、と思い込んでしまったのだろう。
尚、マイタケと誤認してしまう様な形状のカエンタケ、と言うのが
どの様な物なのかは、当方にはちょっと想像が出来無い。
 


所で、Wikipediaによると
江戸時代の植物図鑑、『本草図譜』にカエンタケの記載がある、と言う。
同書は国立国会図書館のデジタル資料で公開されているので
早速閲覧してみた(こちらの7ページ目(「/22」とある欄に「7」を選択)を参照)。
すると「火焔たけ」として珊瑚状のキノコの絵に
以下の解説文が添えられていた。

 状(かたち)細條の珊瑚の如く
 其色紅赤火の炎々たるが如く
 高さ三〜五寸、大なるものは尺余に至る
 大毒ありといへり
 
(カタカナ→平仮名、読み仮名と句点追加、変体仮名の変換、改行等はまねき屋)

描かれたキノコの形だけを見ると、あまりにも枝分かれが多いので
それが本当にカエンタケを描いているのかどうかは確信が持てない。
詳細は上記リンクから参照して貰いたいが
それが面倒だ、と言う人の為に当方が模写してみた。

いや、本当にこんな感じなのだ。

これだと、カエンタケと言うより
分岐の多いタイプのハナホウキタケと見えなくも無い。
hanahouki.JPG
ハナホウキタケも毒キノコなので
それと混同した可能性もあるのでは無いだろうか。

さらに言えば、形状的にはムラサキホウキタケやmurasakihouki.JPG

ニカワホウキタケの方が近い。
nikawahouki-1.JPG
nikawahouki-2.JPG
こちらはやや古びたニカワホウキタケ。
乾燥すると赤みを差すようになる

ムラサキホウキタケ、ニカワホウキタケは食キノコだが
ハナホウキタケの中毒に懲りた人が
それらも同じ物だと混同してしまい、
その情報を元に描かれた可能性も捨て切れない。
ただ、ムラサキホウキタケ、ニカワホウキタケ共に
大きな個体でも精々5〜6cm、2寸程度なので大きさが合わない。
ハナホウキタケでも精々15cm、5寸で、
「尺に余る=30cm以上」になるとは思い難い。
カエンタケも同様で、大きくても5寸程度だが
先の『新潟のきのこ』だけは
「時に20cmを超える」「25cm」と書かれている。

『本草図譜』の他のキノコ絵図を見ると、
他書からそのまま書写し転載した物が多く
著者の岩崎常正が実物を写生したと思われる物は実は少ない。
この「火焔たけ」も『菌譜』(坂本浩然著)からの転載と思われる。
『菌譜』も国立国会図書館のデジタル資料で公開されているので
早速閲覧してみた(こちらの17ページ目)。

『菌譜』の「火焔蕈 クワヱンダケ」は
『本草図譜』の物より更に細長く描かれている。
と言う事は、転載したと言っても
正確に写した訳では無く、
かなり岩崎常正の主観が加わっている様だ。
尚、添えられた説明書きは『本草図譜』と大差無い。

 状ち細條の珊瑚の如く
 其色紅赤火の炎々として燃るが如し
 高さ三〜五寸、大なるものは尺許に至る
 毒あり食うべからず

 (カタカナ→平仮名、句点追加、変体仮名の変換、改行等はまねき屋)

どちらも「毒あり」とはあるが
どの様な毒なのかには触れられていない。
カエンタケの様な重大な毒ならば
その記述があっても良いだろう。
また、カエンタケの苦味にも触れられていない。
となると、「食べる事すら困難」なカエンタケよりも
「食べる事は容易だが毒」のハナホウキタケの可能性が
より高い様に思われる。

『菌譜』にしても『本草図譜』にしても
突拍子も無い色形の為、何のキノコを描いたのか
現在でも判明していない、と言う物がある。
つまり、実在のキノコを目の前にして
写生したとは思えない絵図がある、という事だ。
恐らく伝聞情報を元に想像で描かれた物もあるのでは無いだろうか。
またキノコの名称も現在の標準和名と対応している訳では無いので
描かれた物をどの様に解釈するか、は慎重にならざるを得ない。

また、更に調べてみると『梅園菌譜』にも
「火焔蕈 クワヱンダケ」が掲載されている(こちらの51ページ目)。
そちらは明らかにベニナギナタタケの形状だ。


添えられた説明文はこちら。

 坂本氏菌譜に出す
 火焔蕈と微(すこし)異(ことな)り
 然(しかれ)とも菫(わずか)に股をなす
 恰(あたか)も珊瑚の細條に似たり
 其大きさ図の如し
 一尺に至ると云うもの諸州の風土に違い有るべし
 大毒あり
 (カタカナ→平仮名、句点追加、変体仮名の変換、改行等はまねき屋)


どちらかと言うと自信なさげだ。

添え書きに「根村山中笹林に採之真写」とあるので
『梅園菌譜』の著者、毛利元寿は
恐らくこのキノコを実際に見て描いているのだろう。
だが、名称を知らなかった為に
色合いと、何となくの形状だけで
坂本浩然の『菌譜』の「火焔蕈」に当て嵌めてしまった、と思われる。

写真や正確な写生図を使用した図鑑の無い時代。
それも仕様が無い事だろう。
後年の我々が、その時代の情報に接する場合には
その事を十分に承知して置かなければならない、と言う事だよなぁ。



所で、最初に引用した報道では
カエンタケの発生はナラ枯れと関係があるらしい、とあった。
ナラ枯れはカシナガによる物だ。
そのカシナガが近年生息数と生息域を増やしている為に
ナラ枯れが広がり、その結果カエンタケの発生が増えているのだ。
カシナガの増加の原因として、森林環境の変化が上げられている。

その昔、野山は薪等の燃料を採取する場所だった。
枯れ木、枯れ枝は可能な限り人間に持ち去られていた。
所が、時代が進み、燃料事情が変化した為、
それらを採取する人は居なくなり、野山に放置される様になった。
カシナガからしたら、生息環境が増えた事になる。
その為、カシナガの個体数が増加し
ナラ枯れの蔓延に至った、と言う話だ。

それに加え、大気汚染等の環境悪化により
ナラの樹勢が弱っている、と言うのも原因の一つだろう。
ナラの抵抗力が落ちている為に、カシナガの侵入を防ぎきれず
ナラ枯れに至ってしまったのだろう。
つまり、人間がカシナガの個体数増加とナラの弱体化を引き起こし
結果的にカエンタケの増加と招いている、と言う事になる。

其処から更に考えを広げてみる。
遥か昔は枯れ木も枯れ枝も完全に放置されていた筈だ。
とすると、カシナガはそれなりの数が生息していた筈で
ナラ枯れもそれなりにあっただろう。
元々、カシナガの様な虫は
樹勢の弱った樹木を速やかに枯死させ
森林の新陳代謝を促進させる、と言う役割があるのだ。
健全な森林でもナラ枯れは必須の存在の筈だ。

そうなると、カエンタケもそれなりに発生していたのだろう。
所が、人間が枯れ木、枯れ枝を利用する様になって
カシナガは数を減らし、カエンタケの発生も減っていた。
カエンタケの発生は、人の手の届かない山奥等に限られ
カエンタケが人の目に触れる事は少なかった。
それが時代が進み状況が変化し
以前は山奥にしか無かったカエンタケの発生条件が
里山(=人間の生活圏)に頻出する様になった。
その為、カエンタケの中毒事故が発生する様になった……

これだけ特徴的で目立つキノコでありながら
カエンタケの存在が世間にはあまり知られておらず
カエンタケの中毒事故が、つい最近まで報告されていなかった、
と言う理由はその辺りでは無いだろうか。
もし、江戸時代などにカエンタケの中毒事故があったとしても
山奥での事なので伝承もされ難かったろうし
元々発生の少なかったキノコなので
中毒者が少なかった為に伝承されなかった、とも考えられる。
そもそも、近年になるまで
人間社会はカエンタケとは出会っていなかったのかも知れない。
人間とカエンタケの遭遇は実は数百年振りなのかも知れないよなぁ……


とにかく、カエンタケが非常に危険なキノコである事は
こうやって広く知られる事になった。
その為、カエンタケの発生が確認されると
直ちに除去される様になった。

こちらは発生してすぐに折り取られたが
その後暫く成長を続けた個体。
kaentake-18.JPG
kaentake-19.JPG
万が一の危険を回避するにはそれも仕方無いだろう。

だが、綺麗な、立派なカエンタケを目にする機会が減ってしまったのは
得体の知れない物が大好きな
当方の様なキノコマニアにはちょっと残念だったりする……(^ω^;)



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| 子嚢菌類 | 00:07 | comments(16) | trackbacks(0) | pookmark |
コメント
締めくくりにまねき屋さんらしさが表れていますね

隅から隅まで読ませていただいた訳ではないのですが カエンタケは怖いですね
怖いもの見たさで会いたい気持ちはありますけど
それにしても なにもお酒に入れてみなくたっていいでしょうに
あんな得体の知れないものをよく食べてみる気になるなぁと感心しました

北海道はまだナラ枯れが起きていないのでホッとします
温暖化とともにカシノナガキクイムシはやって来るのでしょうか
それとももう北海道にはいるのかしら・・・
今年もこの辺のミズナラは全然実をつけませんでした
| yuuko | 2011/10/22 2:30 PM |
まいどー(・∀・)

少しでも、枯れた部位があると、そこを付け狙うのが、
害虫や菌類ですねー


個人的には、虫は菌類を媒介すると思っています。
穴を開ければ、空中浮遊菌が入り込んだりもあるかもだし。
コナラの枝切って速攻で来るのが、クロコブ大王ですわ。

カエンタケ……

天然キノコ欲しさに、深山まで人が入るようになって騒がれ
る様になったのではないか?と思います。

これを機に自然林を荒らす防御になれば良いですね。
関東〜東北では、自然キノコの採取は禁止になってますし。

ほ・う・しゃ・の・う……で。

余談ですが、現在こっちのブログでは「ヒラタケ」でググっ
て来る人が異常に多いので、自然キノコへの貪り度に驚いていますw

あー今、ヒラタケがあちこちで旬なのね?ってバレバレw

あと、数年前の釣り日記。
で、新日記にはアクセス無いんですよ(笑)
| きのこ堂 | 2011/10/22 2:52 PM |

>>yuukoさん
有難う御座居ますー(*・∀・*)♪

山の温泉旅館の美味しい料理と美味しいお酒で
酔っ払ってハイになって、ノリでやってしまったのでしょうね。
折角の楽しい旅行が
そんな結果になってしまったのは可哀相ですよね……

青森と北海道ではまだナラ枯れは発生していないらしいですね。
でも時間の問題かも知れませんね。
京都では社寺の御神木を保護する為の対策で必死、との事です。
いずれ全国的に必要になるのでしょうね……
| まねき屋 | 2011/10/22 5:15 PM |
>>きのこ堂さん
まいどー(・∀・)♪

>コナラの枝切って速攻で来るのが、クロコブ大王ですわ
そんなにすぐ様来る、て事は樹皮で待機してるんでしょうかねー

確かに天然キノコを求めて奥へ分け入る人が
増えた事も関係あるのでしょうね。
でも実際に、今まで発生の見られなかった里山地域での
発生が増えているのも事実ですので
両方が相俟っての中毒事故なのでしょうね。

関東東北は暫くキノコ的には放置状態になるので
菌相的な変化があるかも知れませんね。
でも、来年には皆普通に採り始めるのでしょうかね……
| まねき屋 | 2011/10/22 5:39 PM |
こんばんは。
以前、私はよく調べないままにホウキタケの仲間を採取して食べてしまって無事だったのは奇跡だった???ですかね。
カエンタケは観賞するだけなら美しいキノコですよね。
猛毒だから嫌われるのは可哀想です。
カエンタケだって生態系の為に役立っているのですから。
近所でカエンタケが生えていた場所、実は枯れ枝や落ち葉を溜めていたところだったのですが、残念ながら現在は環境が変わってしまいました。
代わりに猛毒のヤマトリカブトが生えていますwww
トリカブトだって花は美しいのに…
トリカブトを見つけるとすぐに除草する傾向にあるのが残念です。
有毒だ、無毒だ、なんて人間の勝手な都合と理由だけなのに…とつくづく思います。
| 北条氏康 | 2011/10/23 1:11 AM |

>>北条氏康さん
当方も、カエンタケの含まれるニクザキン属の
ボタンタケの仲間を齧った事がありましたが
幸い何も起こらなかったです。
今回の記事を書く前だったので、ニクザキン属その物が
危険なグループだとは知りませんでした……

ハナホウキタケ、キホウキタケも毒キノコですが
個体差、体質による発症程度の差が大きい様で
北条氏康さんは運が良かったのかも知れませんねー
もっとも、ホウキタケ属自体の分類研究がまだ不十分なので
「可食のハナホウキタケ」と言うのも多分あるのだと思います。

ほんと、毒だ食だなんて人間の勝手な都合ですよねー
植物、キノコからしたら、余計なお世話!ですよねw
| まねき屋 | 2011/10/23 2:43 PM |
こんばんは

中毒例を読ませてもらいましたが、エグいですね…カエンタケ恐るべし。

私はまだ実物を見たことがありません。ナラ枯れが激増していますので、時間の問題なんでしょうね…

それにしても、キノコの破壊力は凄まじいですね。長い歴史の中で、暗殺などに使われたりしなかったんですかね…
| だんきち | 2011/10/26 9:59 PM |

>>だんきちさん
ここ数年は京都での発生が増えているそうなので
段々に南下して行くかも知れませんねー
確かに時間の問題かと。

キノコの暗殺。
ツキヨタケが使われた話が『今昔物語』にありますねー
もっとも、その人はツキヨタケの毒に耐性があったみたいで
普通に美味しい美味しいと食べたので未遂に終わったそうですがw
実際、ツキヨタケは水に晒して毒抜きをすると
美味しい食材になると『どうしん』にはありました。
因みにドクツルタケ辺りは本当に美味しいらしいので
暗殺に使用された例はあるのでは無いでしょうかね???
| まねき屋 | 2011/10/27 10:40 AM |
恐ろしいですね…。
そういえば以前学校の理科の先生から「カエンタケは気体の毒も放出するからむやみに触ったり近づいたりすると危ない」と教わったのですが、それは本当なのでしょうか?
だとしたら…(」゚ロ゚)」おぉ(。ロ。)おぉΣ(゚ロ゚」)」おぉ「(。ロ。「)おぉ~

同じく小宮山勝司さんの本で「きのこガイド」(長岡書店 2007)で、運動障害がでたケースが紹介されていました。

| 大晴 | 2011/10/29 5:38 PM |

>>大晴さん
カエンタケが気体の毒を放出は初耳です。
調べたのですが、判りませんでした……
シャグマアミガサタケの煮沸時の湯気の事と間違えている、
と言う事は無いでしょうか???
本当だとしたらかなり恐ろしいですが……(∩;゚皿゚)ヒイィィィッッッ!

近年になって中毒事故が発生しているのは
自然食や山ブームで安易に野生のキノコを
採取する風潮が影響しているのでしょうかね。
にしても無謀ですよね……
| まねき屋 | 2011/10/31 3:12 PM |
この「火炎茸」で、出来ればあのにっくき「イジメ」を倒したい! 魚を獲る「モリ」の刃先に付着させて、譬え急所でなくても効果はある筈。更に「塩素系の洗剤」を掛ければ尚効果が出るのではないか!?
| 魔鬼の超民 | 2014/09/22 11:46 AM |

>>魔鬼の超民さん
カエンタケを矢毒として使用した例があるのどうか、
実際に効果があるのかどうかは判りませんが
どうぞお気を付け下さい。

| まねき屋 | 2014/09/27 12:20 PM |
管理人様こんにちは。出来ればこの「火炎茸」もっと北上して新潟県、丁度愚生が住んでいる新潟市西蒲区の「カクダ山」の林の中にビッシリ生えてくれれば幸甚です! 是を乾燥させるか、或いは植え替えて大量に栽培出来ないものか、と思案しています。昨夜(平成26年11月15日の23時頃)奴が恐らく何処かで&#21534;んだ勢いで愚生の部屋に入るなり、押し入れから布団だの毛布を引っ張り出して、愚生の体に掛けてくれたのは良いのですが、余りに重すぎて今朝は寝坊して仕舞いました。(苦笑)今日の昼間に国道沿いに生えている茸を採ってきましたが、是も裏庭に植え替えて乾燥させて、奴が使用している「ローション」に混ぜてやるつもりです!
| 魔鬼の超民改め ”幽谷の名無し ” | 2014/11/16 2:47 PM |

>>幽谷の名無しさん
発生のメカニズムは殆ど未解明なのだそうですので
計画的に発生させるのはかなり難しそうですね。
栽培している所はちょと見てみたいです。
何分、猛毒キノコですのでどうぞお気を付けを・・・・・・
| まねき屋 | 2014/11/16 3:46 PM |
 はじめまして。

カエンタケと思われる物を素手で触っていた画像がありましたがブログ管理者さん自ら触ったのですか?
大丈夫でしたか?
| チピ鈴ぴよ母 | 2018/12/06 2:20 PM |
 
>>チピ鈴ぴよ母さん
コメント有難う御座居ました。

カエンタケは断面を触らない様に注意した上で
大丈夫そうな所を持つ様にして、かなり気を付けました。

自分でやって置いてアレですが、直接触る事はお勧めしません。
| まねき屋 | 2018/12/06 10:38 PM |
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