フィールドでキノコ観察をして居ると
沢山の水滴の付いているキノコに出逢う事が時々ある。
キノコも炎天下で大汗をかいている、と言う訳では無く
それは「分解水」または「代謝水」と言う物で
キノコが成長する為に有機物を分解し
吸収する際に排出される水分だ。
とは言え、どのキノコにでも見られる物では無い。
一番それを良く見掛けるのはツガサルノコシカケだ。
それがこちらの画像。
若い、成長力の旺盛な時期に良くこの様な光景が見られる。
饅頭型の盛り上がった幼菌の全面に水滴が付いている。
キノコムシ?は友情出演w
こちらは丸太の切断面に発生していた所、
その丸太を立てられてしまった為に
妙な形になってしまった個体。
全体的に幼菌だが、
新たに成長し始めた部分だけに分解水が付いている。
こちらは成長段階毎の様子。
2011/05/20。
出始めたばかりの小さな幼菌の全面に分解水が付いている。
2011/07/22。
傘縁の部分に少しだけ分解水が付いているのが見える。
2011/08/26。
この時には分解水は見当たらなかった。
成長による物なのか、たまたまなのかは不明。
2011/10/18。
ここ迄になったらもう分解水は全く出ない様だ。
2012/04/27。
その子実体が何者かに取り去られた後、
同じ場所に更に幼菌が出始めていた。
矢張り分解水が全面にびっしり。
2012/07/23。
傘縁の部分には引き続き分解水がびっしりだった。
此処の個体はとにかく成長力が旺盛な様だ。
その分、分解水の排出も多いのかも知れない。
だが、若いからと言って、必ず分解水が出ている訳では無い。
こちらの個体は成長が旺盛な筈なのだが分解水は見当たらない。
分解水の有無は個体差が大きい様だ。
成菌になってしまうと勿論分解水は見られない。
分解水は若さの象徴だ、とも言えるだろう。
ツガサルノコシカケの分解水はご覧の様に透明だが
中には色付きの物もある。こちらはチャハリタケ(Hydnellum)属と思われるキノコが
排出していた物。 この様にグロさが目を引く為に、
web上にUPされている画像もかなり多い(→こちら)。このキノコはニクウチワタケでは無いか、とのご指摘を頂きました。
調べた所、ニクウチワタケの可能性が高く、
少なくともチャハリタケ属では無い事が判りました。
Iさん、ご指摘頂きまして本当に有難う御座居ました。
【2012年9月1日追記】
硬質菌以外ではホシアンズタケのそれが有名だ(→こちら)。
中には分解水が付着する事が報告されていないキノコにも
分解水が観察される事もある。
こちらはヒラフスベ。
毒々しい色の分解水が見受けられる。
ティッシュに吸わせてみると褐色の色合いだった。
この画像に関しては以前の日記で取り上げた事がある(→こちら)。
普段、分解水を発生させない種類でも
何かの加減で付着させる事があるのかも知れない。
こちらは種不明のキノコ幼菌から発生していた物(→こちら)。
こちらは以前UPした画像。
キイロイグチに寄生した Sepedonium chrysospermum から
排出されていた物。
こんな例もあるのだよなぁ。
実は分解水はキノコの栽培現場に於いては「吐水症」と言われ
好ましからざる現象とされている。
分解水の有無の意味は種によってかなり違う様だ。
所でこの分解水。
成分に何かが含まれていてどうだ、と言う話は聞かない。
中国でも分解水は見られるとは思うのだが
本草書や漢方の分野で言及された例を知らない。
例えば菊の花に降りる朝露を「菊の露」又は「菊の雫」と言って
それを飲む事によって無病息災、長生の効果がある、とされているが
(「菊の露」「菊の雫」の名の清酒や食品、
化粧品があるのはその縁起を担いだ為と思われる)
「キノコの露」に対してはそんな話は無い様だ。
先にも書いたが、分解水は若さの象徴の筈なのだがなぁ。
この世にある、あらゆる物に
薬性を見出そうとした中国でも相手にされなかった、
もしくは結果の報告が伝承されていないのだから
分解水には実質的にも呪術的にも特段の毒性も
何がしかの薬効も無いのだろう。
うーむ、残念だ。
何かの劇的効果があるのなら見付け次第飲むのになぁ。
木の根元にしゃがみ込んででもベロベロ舐めるよ。
なんてねw
もっとも、白樺の樹液が飲料水として売られる時代だ。
それならば、キノコの幼菌が排出する分解水に
商品価値を見出す人が現れても不思議は無いだろう。
もし販売されたら、ちょっと飲んでみたい気はするなぁ。
当方がその商売に手を出す気は無いけどね。
だって、とてもじゃないけど
商売として成功するとは思えないしなぁ……w